こんにちは林檎色の悲鳴。
窒息まがいの行動で感嘆、消息しない春は今も胸で踊っている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
朝は空気が透明に見える。
花も虫も初めて呼吸をしたかのように新鮮な気持ち。
 
そんな空気の中、教室でレナがいつものようにおどけた感じに言った。
 
 
 
 
 
「圭一くん昨日のおはぎ全部食べられなかったんだって」
 
 
 
 
 
苦笑という形で笑いながらレナは私たち、沙都子と梨花ちゃんと私にそう告げた。
「あらー、じゃぁ罰ゲームだねぇ」
くすくすと笑う。4人だけで。一人足りない。
そう、張本人。
 
 
私をえぐる凶器が目に見えるなら、その対処法を探すこともできるでしょう。
けれど私をえぐるのは視線という名の透明な凶器で。
 
 
「・・・・・・。」
 
圭ちゃんは、怒っているような怯えているような、
ただ決して私たちに好意を抱いているような視線じゃない視線で私たちを見る。
 
 
ぐさり。と、
私の心臓を一突。
決して血は出ません。
けれど血が出たほうがどれほど良かったのだろう。
あなたの表情が変わるかもしれないから。
 
最近の、圭ちゃんの様子がおかしい。
 
前までは・・・綿流しのお祭りまではあんなに仲良くしていたのに。
 
・・・ううん、駄目だ、悲観は。
ここは部長らしく部活をもって圭ちゃんと仲良くしなくちゃ!!
 
 
そんなことを考えていると終業のベルが鳴る。
 
 
「よっし今日も部活にしよーーーーーーっ!!!!
圭ちゃん何が良・・・」
 
そう言いながら、圭ちゃんが楽しみそうなやつは何だっけかなー
あー!推理系だ!よっしあれをやろうでも容赦なんかしてやんないから!
と思っていたら、
 
 
「しばらく放っておいてくれ」
 
 
という言葉で突き放す。
突き刺さる、言葉。
そしてそのまま圭ちゃんは扉をガラガラと開けてそのまま扉を閉めずに帰って行った。
私はぐさぐさと、体を刺された気がした。
やっぱり、私、何かしてしまったんだ。
どうしよう。・・・どうしたら?
 
 
 
 
 
 
 
次の日、圭ちゃんは、待ち合わせをしないで先に学校に行ったとレナから告げられた。
(・・・やっぱり・・・わたしのこと・・・。)
ぜいぜい、どきどきと、大きな音がどこからともなくした。
花も虫も過呼吸になっているみたいだった。
学校につくとそれはますます大きくなって、グラウンドに立っていた人物を見た瞬間に、音は一瞬にして何も聞こえなくなった。
 
 
「圭、ちゃん・・・」
 
 
音を聞こえなくしたのは、間違いなく圭ちゃん。
 
圭ちゃんは、私たちが見た時からバットを持って素振りをしていた。
 
それは本当にごくありふれた、別になんでもない、日常的な。
でも、そのバットには「悟史」という名前がはいっていた。
そして、今のこの、周りのみんなを疑ってかかるような目つき。
何もかも、似ていた。
行動とか、全部。
 
そのバットの持ち主に。
 
「・・・なんだよ、魅音。」
 
少ししてから、圭ちゃんは答えてくれた。
どうしよう、
素振りを、悟史と同じ行動は、やめてほしい。
嫌なことがあったら、言って欲しい。
でも、何て言えば・・・?
オブラートに包まないと、また圭ちゃんを傷つけてしまうかもしれない。
 
「えっと、うーん、と・・・」
 
思えば思うほど、何も出てこない。
花も虫もまた呼吸を始める。
目が回ってきた。
 
 
「なんだよ。」
 
 
出てこない、、から、
ボキャ貧はつらいわぁとかなんとか言いながら笑いをとって空気をごまかしながら、
直接、言ってしまう。
 
「やめてよ。素振り。」
 
 
 
 
 
 
 
 
・・・それからは、もう何がなんだか。ぐちゃぐちゃぐるぐるで。
 
この前の、おはぎの宿題のいたずらとか、
 
ダム戦争とか、いろいろ。
 
言い寄られて、分からなく、なった。
 
 
でもひとつだけ。わかったのは。
 
 
 
 
圭ちゃんの、何かが変わっている。
 
 
でもそれは、私たちにはどうすることもできないの・・・?
 
 
 
 
 
 
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カナカナカナ、とひぐらしたちがだんだんと鳴きだしはじめた。
 
 
部活もバイトも無く早く帰った私は、何もすることがなくただぼーっと空を眺めていた。
そろそろ夕食の準備をしなきゃ何て思っていたら。
リリリリリリ、と電話の鳴る声がしたから、
私は「はいはい」と一人言をいいつつ受話器をあげた。
 
 
 
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いよいよ空が橙がかってきた。
私はレナから電話があり、圭ちゃんが森で倒れているところを発見したらしく、
看病の手伝いをして欲しいと言われ、急いで圭ちゃんの家に行こうとした時、
 
 
玄関の前で、いい事を思いついて、部屋にちょっと戻って探し物をして、
 
 
それから走って圭ちゃんの家へ向かった。
 
 
 
(励ましてあげよう・・・。)
 
 
 
チャイムを鳴らして家に入った私は、圭ちゃんの元気そうな顔をみて安心した。
 
なんだ結構たいしたこと、ないんじゃん・・・。良かった・・・。
 
 
 
二階の階段を上がり圭ちゃんの部屋に行く。
 
重病人なんだからと圭ちゃんを布団に寝せる。
 
監督を呼んだかとレナに聞いてから、監督が来る前に済ませなきゃと思い、罰ゲームといいながら
部屋で探してきたサインペンを取り出す。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
はやく元気になってほしいな。
はやく部活をやりたいな。
この前まではあんなにみんな笑って。
だから今も出来るはずでしょ?
「はやく、元気に、」
 
 
 
 
 
 
 
 
ゴッ、
 
 
 
 
 
 
 
 
 
という擬音が私の頭からしたものだと分かるのはすぐ。
でもそれが圭ちゃんが私を殴ったからだと分かるのには時間がかかった。
 
 

 
頭の中が疑問符と痛みで満たされる。
自分が何故されたのか、自分が何をしてしまったのか、何も分からなかった。
 
 
「ど、したの・・・圭ち」
 
もしかして私はしてはいけないことをしてしまったんじゃないかと思い、
がんがんとする頭をさすりながら、必死に自分の落ち度を尋ねそして謝ろうとしたところで、
 
 
 
「うわああああああああああああ!!!!!」
 
 
 
ガン、ゴンッ
 
 
 
また圭ちゃんが握っているバットの筒状のところから衝撃音が聞こえてくる。
もちろんそれは私の全身に響いて伝わってきた。痛いほどに。
 
 
 
ばしっ、ぐしゃ、がしっ
 
 
 
 
そしてその時、もしかしてと、気づけたのかもしれない。私は。その痛みの正体が。
 
 
 
 
 
「いやああ!!魅ぃちゃん!!」
 
 
 
最初は頭、次は腕、腹足もう一回腕がんがんがんがんがん。
お願い、レナには乱暴しないで・・・。
 
 
 
 
「圭一くん!何してるのッ!?魅ぃちゃん死んじゃうよぉおお!!!!」
 
 
 
あぁあ、意識が朦朧、ふらふらするよ。
そうか私は、私達は、いつのまにかこんなにも圭ちゃんを追い詰めて。
悲しさ、つらさの末の行動。ごめんね。気づけて、あげられなくて。
全て私のミス。私が部長でありながら、みんなの事を気遣ってあげられなくて。
ごめんね、ごめん・・・ごめんなさい。
 
 
 
体が痛いから声に出して痛いと吐き出そうとしても
声からは痛さも悲しさも何も出ていかなくて。
ごめん、という言葉もあやふやな嗚咽になって漏れ出す。
 
 
 
 
 
「圭ちゃ、あ、のね」
 
 
 
 
 
朝はまた私が遅刻しちゃって。
昼はみんなでお弁当広げて。
夕方の部活は誰かが罰ゲームで。
帰り道はみんなに手を振ってバイバイ。
夜は布団で今日の事を思い出しながら夢をみる。
あたりまえの、そんな幸せ。
 
 
 
 
 
 
 
 明日も会いたい 」
 

 
 
 
 
 
 
さようなら夢の跡。
歪曲された感情をもって軋轢、委曲を告げられない空は溶けることなく沈んでいく。
 
 
 
 
 
 
 
end.
 
 
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私的鬼隠し編魅音視点。
色々はぶいたり妄想入ったりしています・・・。